メッセージ


2013年10月13日聖日礼拝 「目に見えない働き」 井上創牧師

 日本の温暖な気候のもとにあって、土に落ちた種はほぼ実ります。種の力とは強いもの で、ほったらかしにしておいても、勝手に芽を出して枝葉を茂らせていきます。 そういった底知れない自然の力強さ、そして地表を覆う森の壮大さに、日本人の祖先は神を見てきたのでしょう。自然の中に神が宿る。 そういう感覚はわかる気がします。 しかし、パレスチナの地域は乾燥した砂漠気候です。低い潅木などは生えていても、森のように高い木が生い茂るということはまずありません。 種も、落ちたらまず芽吹くものだという、日本のような感覚ではないことでしょう。小さな種から一本の木が育つということ。 そのこと自体がもう大きな出来事だったのです。
 そういうパレスチナの気候の中では、植物が育つということ、成長して大きくなること、そのこと自体に人々は奇跡、神の業の跡を見ました。 たった一つの種を巨大な木へと育てていく目に見えない不思議な働きの中にそれを見出したということが、聖書の世界独特の観点なのです。 同じことがパン種のたとえでも語られています。大量の粉を、パン生地へと変えていく。そういうパン種の持つ不思議な働きの中に神の力を見ているのです。
 そして、多くの場合、こういった神の業を見るために、人々は様々な気遣いをしてきました。種には絶えず水をやり、肥料を与え、不要な枝を掃い、日よけをし。 パン種も、日差しを避け、暑からず寒からず、湿度にも気をつけながら。そうして、人間の知恵を駆使して、状態を保つことで、神の業を目の当たりにする機会を与えられてきたのです。 言わば、神と人との共同作業です。聖書の世界は、目に見えない神の力と目に見える人間の力が絡み合って、重なり合ってできています。 神は人間の口を借りて語り、人間の力を用いて奇跡の業を成し遂げます。時に、動物の力を借りることもあります。もちろん、それは、神の力が足りないから、不十分だからではありません。 人間を信じて、一緒に歩みたいと願う友愛のゆえです。
 私たちの教会も、このような神さまからの信頼の上に建てられています。この教会が、私たち一人ひとりが、神さまと力を合わせて、共同作業で、この地域の人々に、自分の隣人に、喜びを満たしていく。 そういうことができるのだと、神さまが信じてくださっているのです。だから、私たちは、まるで夫婦が一つの家庭を仲睦まじく話し合いながら築き上げていくように、相手のためを思いながら教会を築き上げていくのです。 では、そのために私たちにできることは何でしょうか。
 私たちはつい、教会の中で「しなければならない」ことに目を向けてしまいがちです。そして、あれをしなければ、これをしなければと思っているうちに日曜日が過ぎ、一週間が過ぎ、また次の日曜が来る。 やることに追われて、疲れてしまう。そういうこともあるかもしれません。しかし、「しなければならない」ことの多くは、人の思いから生まれています。 こうしなければならないという拘りは、人が生む拘りです。そして、そういう人間の思いから生まれたものはどこか欠陥があったり、長続きしないものです。 やがて、教会全体が疲れていきます。そもそも、教会は何かを「しなければならない」場所ではなかったはずです。
 教会の中で最初に生まれるのは、「何かをしたいなぁ」という思いです。それは、神さまから蒔かれる種です。 その思いを分かち合って、みんなで実際にやってみるのです。 どんな芽が出るのか育ててみるのです。そうして、教会は動き出していきます。 こんな礼拝が「したいなぁ」。心が落ち着いて、きれいな奏楽があって、子ども達の声があふれていて、聖霊に満たされた礼拝。 終わった後には、みんなでその喜びを分かち合う時、お互いの一週間の思いを分かち合う食卓を囲みたいなぁ。 やってみて、みんなで「いいねぇ、これ」と思って、続けていくのです。 「何かをしたいなぁ」という思い、心に蒔かれた種。それを、神さまと、教会の仲間と一緒に育てていくのです。 その際に、忘れてはならない大切なことは、安心感です。誰かの「したいなぁ」という気持ちを否定しないこと。 誰かが「したいなぁ」と思ってしたことを、敬意を持って評価すること。 「駄目だぁ、そんなのは」と言われたり、無視されたりして、諦めて萎びてしまった芽はないでしょうか。 のびのびと育っていいのだという雰囲気が生まれてくることが、伸びていきたいと願っている教会にとって一番の栄養なのです。
 みなさん、希望してください。「何かやりたいなぁ」と思ってください。それを口にしても大丈夫なのだとみんなが思えるような安心に満ちた教会になっていけたらと思っています。 そうすれば、みなさんの中に蒔かれた種は、神さまの目に見えない力に支えられて、大きな木に育っていくことでしょう。その大木の枝に、この地域からたくさんの鳥が集まり、讃美の歌声を響かせる時を、楽しみに待ち望みたいと思います。


メッセージへ戻る

ホームへ戻る