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五つのパンと二匹の魚  2015年2月7日礼拝説教  北村 裕樹牧師

 「私たちは「自分で考える」ことをしなくなっていないだろうか。誰かが考えてくれる。誰かが実現してくれる。誰かに任せれば何とかなる。誰かが……etc. 誰かが作った社会の中に安住して、「自分で考える」ことをしません。いや、必要とさえ感じていないのです。
 そのような私たちの現実のただ中に、約束のしるしとして与えられた救い主は、自分では命をつなぎ止めることもできない貧しく弱い赤ん坊の姿でした。他の誰かが彼のために何かをしてあげなければならない、救い主のために私たちが「何かを考えて、行動しなければならない」という、ものすごいチャレンジでした。
 ここでも、弟子たちにチャレンジされるイエスの姿があります。
 「ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。」(ヨハネによる福音書6:9)
 大麦のパン五つと魚二匹。一人の少年の弁当に過ぎない小さなものと、食事を必要としている男だけで五○○○人の群衆。その対比の前に、目の前にある小さなものがいったい何になるのか、と弟子たちの常識がささやきます。また、二○○デナリオンは労働者の約7ヶ月分の賃金です。それでパンを購入してもまず間に合わないだろうと思えるほどの人数。その大きさがまず目に付きます。その一方で、目の前にあるのはわずかなパンと魚だけしかありません。私たちの常識もまた、この現実の前に沈黙を促すでしょう。
 ほんのわずかしかない、と無力さを感じている弟子たちの心情が目に浮かぶようです。
 そしてそれは、私たちも同じでしょう。神を信じ、神を仰いで歩んでいるはずなのに、いつも躓いてばかりです。自分には信仰が足りないと嘆きます。日々の努力が足りないと焦ります。そうかと思えば、調子に乗って羽目を外してしまいます。神への思いが二転三転します。そんな信仰では神の前に正しくない、こんな信仰では不十分だと思っています。また、そんな生き方に悩み、このままではイエスの思いにすら応えることができないと悩んでいます。自分の目の前にあるもの全てが小さく見えて、むなしく思っているのです。小さな視野でしか神を捉えていません。神の思い、神の恵みを勝手に限定しています。
 イエスは、その思いが間違っているということを身をもって示されました。
 「イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えてから、座っている人々に分け与えられた。また、魚も同じようにして、欲しいだけ分け与えられた。」(ヨハネによる福音書6:11
 ここで、イエスは何もないところ、全くの無の状態からではなく、少年の持っていた五つのパンを用いて分け与えられているところに注目しましょう。少年の持っていたもの、わずかなものがこの奇跡のもとになっているところが非常に意義深いと思います。イエスは神の力を用いて、何も無いところに突然、恵みを与えられるのではありません。祈っていれば、空中から突然パンが降ってくるのでもありません。
 この奇跡は、私たちの手の中にあるもの、それはどんなに小さくて、わずかなものであったとしても、イエスの前に差し出され、主の御用のために用いられる時、一つのものが十倍にも百倍にもなるのだ、と語っているのです。
 言い換えるならば、たとえわずかなものでも、喜んで主の前に差し出しているかどうかが問われている、ということでしょう。ほんのわずかしかないから出し惜しみしたくなるほど、小さく見えているもの。それを神の前に喜んで差し出せるかどうかが問われています。そして、その私たちの目には小さく映るものも、主の祝福を受けると大きくなり、主の御用のために何倍もの大きな働きをなすことがここで明らかにされているのです。
 そればかりではありません。人間の目には小さく映っているもの、弟子たちがほんのわずかだと思っていたものが、実は十二分に有り余る恵みであったことも明らかにされます。
 「集めると、人々が五つの大麦パンを食べて、なお残ったパンの屑で、十二の籠がいっぱいになった。」(ヨハネによる福音書6:13
 今、あなたたちに与えられているものは、あなたたちに十分である、とイエスは言われています。パン五つと魚二匹「しか」ないと思いこむのではなく、パン五つと魚二匹「も」与えられていると感謝しましょう。
 神を信じ、キリストに従う私たちの新しい歩みが始まります。それは、神の力を信じ、神に全てを委ねる歩みです。疑っていても、悩んでいても、苦しんでいても、その全てを神は受け止め、支え、押し出してくださいます。私たちには十分に恵みが注がれています。「しか」ではなく「も」と受け止め、感謝することが大切です。そして、私たちの目にはわずかとしか思えないその全てを神が用いてくださる事を信じて、改めて神と向き合い、神の思いに応える旅路を歩んで参りましょう。


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